地方の番茶 ~寒茶~

番茶という言葉が指すものは、地方によって様々。
ここ加賀では、番茶と言えば茎を焙じた棒茶のこと。
私たちの出身である滋賀や奈良では
一番茶が終わる頃以降に摘まれた
大きく育ちきった葉をそのまま乾燥させているものや
そのような大きな葉を焙じたものが番茶でした。
この他にも日本各地に、地方の番茶があり
それはそれは、かけがえのない庶民の文化だと思います。

今回はその中でも、
寒茶(かんちゃ)という番茶をご紹介します。
(名水はまた次回。)

いつどこで

寒茶は、その名のとおり一番寒い大寒の頃
一月下旬から二月初旬にかけて作られます。
そんな時に葉を摘み取り、製茶するというのですから…
茶農家の方に頭が下がります。
寒茶の生産地としてよく知られているのは
徳島県(阿波番茶があまりにも有名ですが
一部の地域では寒茶が作られます)や愛知県の一部です。

製法

鋏で刈り取った後 茶葉を蒸熱して酸化を止めるところは
煎茶同様ですが
その後は、揉むことなく乾燥させるだけ。
煎茶が針のように揉捻していくことを思うと
シンプルな製法です。
煎茶は、機械で揉捻するうちに葉が細かくなり
抽出した後の茶殻は、いってみればモロモロです。
一方寒茶のように、刈った後、揉むことなく
ただ乾かしているようなお茶は
葉が途中で切れることなくそのままの姿で残っています。
大寒の頃まで大きく育った葉ですので、
計ってみると8~10cmにもなります。

淹れ方

お茶は、蒸熱された後に揉まれることで
味が抽出されやすくなります。
一方寒茶のように、一切揉まれていないお茶は
ただお湯に浸すだけでは物足りなく感じます。
そのため、葉をやかんでしばらく煮出すことになります。

味の個性

仮に、煎茶を煮出すなんてことをしてしまうと
煎茶らしい香りは揮発しきってしまい
逆に、苦渋味ばかりが前面に出てしまいます。

一方寒茶は、煮出しても味が濃く苦渋くならず
昆布だしのようなほんのりした甘さのある
後味がさっぱりしたお茶。
その甘さは、まろみ豊かな煎茶のそれとは違います。

というのも、寒茶はアミノ酸やカテキン、カフェインといった
味の構成要素が一番少ない時期に摘まれるものです。

アミノ酸はお茶のうま味
カテキンは良い渋み、猛々しさや味の引き締まり
カフェインは良い苦味に関連していますが
春の葉ほどその量は多く、冬になるにつれ減少します。
また反対にショ糖や果糖などは増えていき、結果として
寒茶は舌で感じやすい甘味を呈しています。

来月には、寒茶を含めた番茶の茶会も開催する予定です。
身体の芯まで温められるようなお茶を複数準備しますので
ぜひお越しください。