山のお茶 Ⅱ

味わい

昼夜の温度差や日照時間が比較的短いなど
山のお茶特有の環境の下で育った葉の特徴は…

チャノキは昼間光合成を行い、光のエネルギーで
二酸化炭素を糖(スクロース)に変換しています。
夜にぐっと冷え込むと代謝が悪くなるおかげで
昼に蓄えた味の構成要素(炭水化物やアミノ酸)は
失われにくくなります。

寒冷地は害虫の被害に比較的遭いにくいこともあり
農薬は最小限の使用或いは不使用にすることも往々にしてあります。
またそれと同時に肥料も最小限にするという茶農家さんも少なくありません。
アミノ酸と一言に言っても
肥料の力で成長を促進されて蓄えられるものと
肥料少なめ或いは与えられずに
山の気候の中でゆっくり成長しながら
チャノキ自身の力で培うアミノ酸では少し異なり
山のお茶の蓄えるアミノ酸はうま味というより甘味が特徴。

そのため、山のお茶には自然な甘味があります。
また経験上言えることは、
渋みがあってもそれはお茶にあるべき渋みであり
不快ではありません。
それがなければ口当たりはスカスカで
身体の表面をただ流れて落ちていくような
お茶になると感じます。

香り

お茶の香りは、栽培環境と製法の両者で決まります。
(品種によっては、その特性として
個性的でわかりやすい香りを持つものもありますが
それは別として。)

山のお茶は、前述のとおり
昼夜の温度差や日照時間が比較的短いといった
山間地特有の環境にあります。
光合成による生成物が蓄えられやすく
また、糖や繊維も比較的豊か。

香気成分は糖や繊維に比例します。
さらに、農薬を制限し肥料を減少させると
チャノキが自己防衛本能を発揮させやすいのですが
その作用が香気成分を豊かにすることもわかってきました。

そのため山のお茶は、音楽で言うとオーケストラのような
重層的な香りを醸します。
この香りは早春の一番茶に特徴的な
青々とした香りとは異なります。
いろいろな香りが少しずつ集まって、結果的に
お茶の香りになったような香りです。

一方、ほっこり香ばしい香りのお茶があります。
これは製茶の最後に行われる、乾燥(火入れ)を
強く行うことによるものです。
お茶は嗜好品ですので
火入れを強くすることによる香ばしさ(火香・ひか)
が好きな方も多くいらっしゃると思います。
実際、香ばしさが際立つ方が
水の臭い(塩素や電気ポットなどによる)に
左右されにくいため、広く普及しています。

ただ、火香の強いお茶の残念な点は
日本中、どの産地で栽培しても
非常に似た傾向に仕上がってしまうことです。

山の香りを十分に引き出し留めたお茶からは
火香ではなく自然な葉の甘い香りがします。

香りは言葉にしづらい。実際に感じていただけるよう
店頭にはいつも山のお茶を置いていますので
足を運んでいただければ幸いです!!!

煎の続き方

山のお茶は葉肉が薄く柔らかなので
葉を蒸す時間が短めになることや
味の構成要素が比較的詰まっていることから
煎が利くつまり2煎、3煎…と抽出し飲み続けられます。

最後に

煎茶の茶摘みは、早いところでは3月下旬~4月初旬から始まり
桜前線のように東へ北へ移動します。

茶摘みは八十八夜頃に行うという印象かもしれません。
八十八夜は5月の始めに当たりますが
その頃に適採期が訪れるのは、日本の産地の中でも
静岡の一部の地域だけのことです。

では山のお茶は?というと、より遅めです。
山のお茶は比較的寒冷地で育つため
茶葉の生育は平地よりも緩慢で
年によって多少動きますが、摘採時期は
5月中旬から下旬あたりの産地が多くなります。

香味の構成要素を蓄えてゆっくり成長する山のお茶は
たとえ他より多少遅くとも、相応しい時期に摘まれてこそ
その特性が表れると感じます。

いろいろ申しましたが、詰まるところは茶農家さん次第。
山のお茶の環境においても平野部や都市部同様の栽培を採る方もあり
きっぱりと分類できるようなものではありません。

私たちは山のお茶らしく作られた山のお茶を好んでいます。
これからも、そのようなお茶を探していきます。

今回は、お茶の生産や製造に携わる方々のご意見も参考にしながら
書かせていただきました。御礼申し上げます。