山のお茶

山のお茶、と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
斜面に連なる茶畝、
台湾高山茶のように標高のある山々、
それとも、みかん畑のように、山一面が
チャノキであるような風景でしょうか。

前回、次は石川県の名水をご紹介すると申しましたが
先日、友人の茶農家さんとお話しているうちに
山のお茶について纏めたいと思い立ちました。 

最初にお伝えしたいのですが
山のお茶の全てが後述するようなお茶ではありません。
山(山間地)でも平地(都市部)でも、
個々の茶農家さんの考えや手法によって様々です。
今回は、あくまで「山のお茶らしいお茶とは」という視点で
綴らせていただきます。

特徴

一般に山のお茶はその立地と製茶された葉の形状から
そのように呼ばれることが多く
また通常、煎茶を指して言います。
しかし、山のお茶で何よりも特徴的で素晴らしいのは
そのお茶の水色、香り、味わい、また煎の続き方です。

立地

立地は、標高が比較的高く
(滋賀の朝宮は400m台、静岡の梅ヶ島は約800mにも)
斜面になっているところや
さほど高くはなくても
(例えば静岡の本山や清水のように100m台の産地も)
都市部から離れている山間地です。

高地で斜面の場合は特に、山間地特有の気候となり
昼夜の温度差が平地より大きくなります。
また朝夕に霧が立ち込める環境も多く
その場合は、霧が日光を適度に遮ります。
谷あいに位置する場合も
平地より日照時間が少ない環境です。

製茶された葉の形状

上のような環境で育った葉は
平野部や都市部のお茶に比べて葉肉が薄く柔らかに
一方、平野部や都市部のチャノキの葉肉は厚くなります。
葉肉が薄く柔らかいと熱が通りやすいため
山のお茶の製茶における蒸し(蒸熱)時間は比較的短く
結果として葉の形がしっかり残り
煎茶になったその葉も長めになります。

蒸熱する時間が長くなるほど
葉の持つ香気成分は揮発していきます。
山のお茶が持っている香りを活かすためにも
短時間で蒸されることが理想的です。

お茶の葉は針のようだと言われることがありますが、
山のお茶は一般に裁縫で使う針より少し短いくらい。
それほどピンと伸びて美しいものが多いです。
太さは農家さんによって様々で
繊細なものからしっかり太さがあるものまで。
印象としては、山のお茶を作る茶農家さんは
見た目をそこまで意識しないことも往々にしてあるため
骨太なお茶の葉も多くあります。

このような形状の特徴の方が瞬時に見て取れるため
その形をとらえて、山のお茶は形状がきれいなお茶、と
表現されることもしばしば。
しかし、それだけではないことを
知っていただきたいと思います。

水色

視覚で感じることはインパクトがあるため
お茶を淹れて、緑色の水色になると
ちゃんと味が出ていると安心できるのではないでしょうか。
しかし、「お茶の色は緑色をしているもの」とか
「緑なのが良いお茶」というわけではありません。

本来、煎茶の色は山吹色と表現されてきました。
山のお茶の水色は、山吹色から淡い黄緑色をしていて
色の濃淡で言うととても低い、つまり淡い色です。
実際に淹れてみるとよくわかるのですが
正直不安になるほど色が薄くても
しっかりとした香味のあるお茶は沢山あります。

水色を決定づけるのは製茶法です。
葉を蒸す時間、揉捻の強さや揉捻する際の温度などによって決まります。

少し脱線しますが、ペットボトルのお茶などで
濁ったような濃い緑のものがあります。
あのような濁りは、細かい葉の粒子が浮遊した状態で
時間が経てば沈殿します。
つまり濁って見えるものは、抽出された茶液ではなく
極端な話、茶葉そのものですので注意してください!
(続く)