水について考えるⅢ 硬度Ⅱ

前回、硬度によってお茶の味が影響されると記しましたが
硬度を自分好みに変化させることはできるかというと
その水の硬度が一時硬度による(一時硬度は後述)場合
煮沸によって硬度を下げることはできます。
塩素を除去したい時にはその機能が備わった浄水器をお勧めしましたが
硬度については効果的ではありません。
(あくまで官能検査上です)。
もしご自身の水道水の水が硬く感じられたら
煮沸して冷ますと印象が変わるかもしれません。
お試しください。

硬度の違いを生むもの

ところで硬度の違いは何によって生まれるのでしょうか。
主には地殻物質が異なることによります。

石灰岩が岩盤となる地層を流れる水は硬度が高く
日本のように火山性地層が多い国で
花崗岩、結晶質岩盤の地層を流れる水の硬度は低めです。
また日本は急峻な地形で水は長く地層に留まりませんが
ヨーロッパや北米のようにゆっくり移動する水は
硬度が高くなる傾向にあります。

硬度の種類

また硬度は、一時硬度と永久硬度から成ります。

一時硬度は雨水が山の斜面に沿って表面を流れ下る時
地表から吸収する塩類
また落葉から吸収する炭酸ガス等の濃度のこと。
一方、地中に深く入り込んで岩石の間を潜り抜け
溶かし出された硫酸塩などの濃度は永久硬度と呼ばれ
区別されます。
一時硬度は炭酸カルシウムなどの炭酸塩を
永久硬度は硫酸カルシウムなどの硫酸塩を多く含んでおり
それぞれの水を、一時硬水、永久硬水と呼んでいます。
一時硬水は煮沸で重炭酸塩が軟化し硬度が下がりますが
永久硬水は煮沸では硬度が変化しません。

硬度の違いによる嗜好品の違い

軟水(硬度20~60)の国、日本では緑茶が親しまれますが
概して硬度が150前後ある国
インド、トルコ、イギリス、ロシアなどでは紅茶が親しまれ
250~300のイタリア、ブラジルなどは珈琲が一般的。
ただ日本のお茶の中でも
例外として抹茶は硬度が上がっても
香味が大きく影響されないという結果はよく目にします。
私たちも外国を含め様々な旅先で必ず抹茶を点てますが
いつもの抹茶が苦くなったり甘くなったり薄くなったりと
大きく違って感じられることはまずありません。
お茶は通常、葉や茎の成分を抽出しているものですが
抹茶は抽出ではなく、粉を撹拌している状態のため
影響されにくいと推測しています。

また軟水は、日本料理全般に向いていて
ご飯をふっくら炊き上げたり
昆布だしや干しシイタケのだしをよく引き出します。
硬度が上がってくると
パスタのコシを強くしたり肉の臭みを抑えたりするため
そのような食材を用いた料理に向いています。

このように改めて背景を知ると
日本で硬水の国の食事をすることは
本来不向きなことのようにも感じられます。
料理人の方々はそういったことも含めて
日本好みになるよう調整し腕を振るわれているのでしょうか。
いずれにしても旅をした時などは
その地で長い間嗜まれる食材や料理法に触れることが
一番、贅沢なことのように感じます。

参考文献
「水と旅する」 竹尾 敬三
「お茶の科学」 山西 貞
「続 お茶と水」 静岡県お茶と水研究会編
「茶の湯の科学入門」 堀内國彦