水について考えるⅡ 硬度 

今回は、お茶の味に大きく影響する要素の一つ
水の硬度について綴ります。

硬水、軟水

硬度とはカルシウムとマグネシウムの濃度で表されるもの。
含有量が多くなれば硬水、少なくなれば軟水。
基準は複数ありますが、ひとつには
硬度0~100mg/l→軟水
100~300mg/l→中硬水
300g/l~→非常な硬水というもの。
軟水の中でも、
0~20mg/l→大変柔らかい
20~50mg/l→柔らかい
50~100mg/l→ふつう
とされることもあります。

日本の水の硬度

日本の水は、沖縄を除くほとんどの地域が
硬度20~60の間にあります。
日本が、軟水の国と言われる所以です。
ちなみに、水道局のウェブサイトを参考に
金沢市各地の水の硬度を見てみると
かなりの軟水で、給水栓の中には16mg/lという場所も。
ちなみに私たちの店は県水のエリアにあり
硬度20~30mg/l程度で推移しています。

硬度の違いによる水やお茶の味の変化

水だけで飲んだ場合
軟水だと口当たり柔らかく甘く感じやすく
硬水になるほどねっとりさを増し
時にはこわばったようにも感じやすくなりますが
軟水ほど人が美味しいと感じるかというとそうでもなく
日本の名水として販売される水の中にも
硬度の高い水は見受けられますし
ここは好みの世界なのだろうと思います。

次にお茶を淹れた場合。
結論から言うと、緑茶には適度な軟水が適しています。

硬度20mg/l程度以下の水は
水として飲むには口当たりソフトで良いのですが
お茶を淹れると味の評価は低くなる傾向にあります。

一方、硬度が高くなると水色が濁りやすいだけでなく
味は淡泊になり過ぎる傾向があります。

なぜこのような違いが出るのでしょうか。
お茶の成分であるカテキン類が抽出されると
水のカルシウムやマグネシウムと結合して不溶化、
また、シュウ酸もカルシウムと結合して沈殿します。
その結果、苦みや渋みのもとであった成分が
味として感知されにくくなります。

逆に、硬度の極端に低い水ですと
結合できる水の成分に乏しくなり
苦味を感じやすくなるというのは確かです。

こう書くと、若干の硬度がある方が
苦渋味のもととなる成分抽出の抑制となるので
硬水であるほど良いようにも感じます。
しかし行き過ぎると本来の素材の持ち味やお茶らしさまで
削がれ、淡泊な味になってしまいます。

そのため、概して緑茶には
適度な軟水が相応しいと言えます。
またイギリスやロシアなどでは紅茶が好まれますが
これらの国の水の硬度は概して150以上と高め。
お茶の成分と結合する水の成分が豊富ですから
渋みも含めて味がくっきりとしたお茶が嗜好されるのも
自然なことです。

官能検査上

ここで疑問が浮かびます。
こちらの店の水道水の水は硬度20~30mg/l程度。
かなりの軟水です。
苦渋味を感じやすいのでは、と思われませんか?
確かに理論上、硬度だけをみる限り
そういった傾向がある水だと言えます。

では実際のところ、官能検査上はどうでしょうか。
私たちが日ごろから親しんでいる煎茶の中にも
別地域でも金沢の店内でも変わりなく
甘露のように味わえるお茶もあれば
なるほど店内で味わうと少し後味に苦みが残るな
というお茶もあります。

ある茶農家さんと話していて興味深いことも聞きました。
その農家さんのお茶を買ったお客様が
「(茶農家さんに淹れてもらった際)大変美味しかったのに
家に持ち返って飲んだら渋くて美味しくなかった」
とおっしゃったとのこと。
逆にその農家さんの土地では市場に出しづらいお茶が
そのお客様の土地で淹れると美味だった、というのです。

水の問題は複雑です。
カルシウムやマグネシウム以外にも
鉄分、ナトリウムなど他の様々なミネラルも含まれますし
また硬度以外の要素もお茶の香味に影響しています。

結局のところ、硬度とお茶の味の関係は、
あくまで「そのような傾向にある」と
理解するくらいが良いと思います

お茶に合う水・水に合うお茶

また、各お茶それぞれに相応しい水を探すといった試みは
果てしなく遠い道のりだと感じます。
私たちはそれよりも
身近な水(多くの方にとっては家の水道水でしょう)で
お茶の良さが引き出されることが大切だ考えています。

そのため、これからも
「お客様が身近な水で淹れた時に良さを感じられるお茶」
を取り揃えることを第一にするために
水道水を浄水したもので試飲し、お茶を選別したり
同じ水でお客様向けにテイスティングや喫茶も行います。

ところで、四~五種類の水を用いて同じお茶を淹れ
水が変わることで変化するお茶の香味を楽しむ催しを
ずっと開催したく考えていました。
年内を目途に実施予定です!

 

参考文献
「水と旅する」 竹尾 敬三
「お茶の科学」 山西 貞
「続 お茶と水」 静岡県お茶と水研究会編