酸化と発酵

煎茶や玉露といった日本茶は発酵していないので不発酵茶
一方紅茶は完全に発酵している完全発酵茶
その間には半発酵茶である烏龍茶があります。

お茶を分類する場合このように説明されています。
とはいえ厳密には「発酵」ではなくて
「酸化」という表現を用いるのが適切です。

では、酸化と発酵とはどう違うのか?
また、発酵と腐ること、いわゆる腐敗の差異は?
といったことを、今回は綴ろうと思います。

発酵

発酵は微生物の働きで有機化合物が変化すること。
微生物は、カビ・酵母・細菌の3種類に分類されます。

ビールやワインやウイスキーは酵母によるアルコール発酵
ヨーグルトや納豆は細菌による乳酸発酵が
お酢は細菌によって酢酸発酵が起こっています。
日本酒づくりでは麹菌と酵母が同時に働きます。
醤油づくりは更に複雑で
麹菌、乳酸菌と酵母が順番に働いています。
このように、発酵では微生物が働くことによって
風味や香りが増し、保存性や栄養価も高まります。

お茶の場合

お茶の場合は微生物によって
烏龍茶や紅茶になっているのではありません。
日本茶、烏龍茶や紅茶といった違いを生み出しているのは
カテキンの酸化によります。
カテキンは、お茶の重要な成分のひとつで
お茶が身体に良いと言われる理由は、
ほぼほぼ、このカテキンの力によります。

酸化

不発酵茶と呼ばれるお茶は、お茶を摘んだ後に
直ちに蒸したり炒ったりすることで
酸化酵素を失活させています。
こうして煎茶や玉露などのお茶は
成分の酸化を防いで製造されたものです。
茶葉に含まれるカテキン類は変化せずに存在します。

一方、半発酵茶や完全発酵茶と呼ばれるお茶は
カテキン類を始めポリフェノール成分の酸化反応によって
多種多用な反応物が生成しています。
例えば、紅茶の色に影響を与えているテアフラビン類。
これは、紅茶のオレンジ色の元ですが
カテキン類の変化によって生成しているものです。

このように、お茶の場合は
お茶自身が持っている成分が変化しているのであって
外からの微生物によって変化しているのではありません。

但し、近年よく聞かれる碁石茶や阿波番茶のようなお茶は
酸化酵素を熱によって失活させた後に
カビや細菌によって本当に発酵させているため
本当の発酵茶です。
微生物発酵茶とも呼ばれることがあります。

腐敗

腐敗とは、細菌によってタンパク質やアミノ酸が
アンモニアと硫化水素に変化し
揮発性ガスが発生するので不快に感じるものです。
とはいえ、少し腐敗しているような状態が
実は美味だったり珍味だったりも。例えば
なれずし、ぬか漬けなどは
人によって、美味しくも腐っているとも
感じられると思います。
微生物によって、明らか人に害を及ぼすとすれば腐敗
人に有益であれば発酵、というところです。

終わりに

酸化という言葉があまり一般的ではないせいでしょうか。
不酸化茶、半酸化茶、完全酸化茶が正しいのですが
正直、あまり美味しそうには聞こえません。
私たちも、店頭では「これは日本の半発酵茶です」とか
「紅茶は完全発酵ですので・・・」というふうに
ご説明しています。ご容赦ください。

 

参考文献
「茶の機能と科学」 森田明雄ほか 編
「発酵のきほん」 舘 博 監修