肥料について~お茶作りではⅡ~

お茶栽培における肥料について感じていることを
引き続き、順に綴っていきます。

用いる肥料の種類は香味に影響を与える

これは少し極端な例ですが
宇治の玉露や碾茶農家さんの中には
イワシやニシンをそのまま肥料に用いる方もあります。
また、品質が高いとされる玉露や碾茶ほど
有機肥料の割合が高いものです。
実際、玉露や抹茶からは芳醇なダシ系の風味を
感じることが往々にしてあります。
一方で、炭水化物を主体とした
植物性肥料を与えられた玉露の場合は
うま味、甘味の質が異なり
口の中にいつまでもまったりとした余韻が残るというよりは
爽やかな香気をほのかに残して
後味は軽やかになるように感じます。

煎茶の場合でも
魚粕(動物性肥料)と米ぬか(植物性肥料)を
それぞれ肥料として栽培したお茶を飲み比べると
その香味は確かに異なっていて
それぞれ、魚ダシのようなうま味、炭水化物のような甘味を
呈したという話もあります。

肥料を減らすほどに香気の高いお茶になる傾向がある

こういった話を耳にしたことがない方にとっては
はてなマークの話かもしれません。

どんな肥料にせよ、その量を減らすほどに
そのお茶が本来持っている香りが豊かに発揚することは
間違いないことです。

この理由はいくつか考えられます。今回は、その中から
香気研究で知られる坂田完三先生の「ストレス理論」を
大変わかりやすく抜粋する
飯田辰彦先生の「日本茶の「勘所」」の内容を
凝縮して、ここでご説明します。

そもそも植物は
花粉を運んでくれる昆虫をおびき寄せたり
害となる虫や病原菌の侵入から身を守るなどの
ストレスとなる状況を乗り切るためにも
様々な香りを出すと言われます。
例えば萎凋茶や半発酵茶を作るときに
萎凋や撹拌といった工程を経るのは
葉に水分不足や傷害を与え
上に述べたようなストレス状況を意図的に作り出すためです。
そうすれば、葉が自己防衛のために香気成分を発散させ
結果として、お茶の香りが高まるという仕組みです。

更に、無施肥でチャノキを育てた場合は
施肥されているチャノキに比べて
育てている時からより多くのストレスがかかり
茶樹がこのストレスに耐えて生き残るために
種々の方策を整えると言われます。その中に
より多くの香気成分を生成できる準備が入っていることが
想像できるためです。

我々の経験の中でも
無施肥の煎茶や萎凋茶の香気は特に力強く
煎を重ねても持続することや
年々肥料を減らしている茶農家さんの紅茶は
肥料の量に反比例するかのように
年を追うごとに、香気が豊かになっているのを
はっきりと感じています。

また、最期になりますが
前回のコラムで、玉露、抹茶や碾茶の場合
何らかの肥料を用いることが相応しいと述べました。
では、玉露や碾茶の香気は薄くなるのかというと
そうではありません。
玉露、抹茶や碾茶の場合
その個性である覆い香(海苔のような香り)は
その名の通り、茶園に何十日も覆いを被せることにより
生成されているものです。
お茶の葉が本来持っている香りを
引き出しているのではありません。
そのため施肥が少ない方が香気が高まるという傾向は
玉露、碾茶には当てはまらないことです。(続く)

 

参考文献
「日本茶の「勘所」」 飯田 辰彦 著