世界的に急増する抹茶の需要を支えるために起きていること

先日、イタリアの料理学校に通う方々向けに
抹茶についてお話する機会がありました。
未来のお料理人が適切な知識を持って抹茶を扱えるよう願いをこめ
スライドを作成してご説明しました。
抹茶のこと、いろいろお伝えしたく、てんこもりの内容にしてしまいました。
お聞きくださった方々の中には、最後まで熱心に聞いてくれた人もいましたが
途中で疲れている人もいました。反省です。
そのためこのコラムでは
世界的に流通する抹茶の需要を支えるために何が起きているのか
という点にフォーカスします。

今や抹茶は世界的に需要が増加しています。
日本で抹茶の茶畑がどんどん開墾されているならともかく
どうやらそういうわけでもない…。
生産量が急増しているわけでもないのに、世界的需要を満たしているの?
と疑問に思いませんか?

抹茶の定義

抹茶は日本茶業中央会の定める緑茶表示基準に記されています。
「碾茶/てんちゃ(覆下栽培した茶葉を碾茶炉等で揉まずに乾燥したもの)を茶臼等で微粉末状に製造したもの」
また、ISO国際標準化機構でも、近年、ほぼ同様の定義付けがなされました。
これにより抹茶の基準は、国内だけではなく世界規模で認識されるようになりました。

この通り、この基準は栽培と製造に関して定めています。
できあがった抹茶の味や香りの成分への言及はありません。

基準の内容をかみくだいてみます。

ステップ1→葉を摘採するまでのしばらくの間、茶畑全体を覆うことで紫外線を減じ
うま味があり、青々とした緑の奇麗な葉を作ろう。

ステップ2→葉を蒸して酸化を止めたら
葉を揉まずに、そのまんま乾かそう。
(どのみち粉砕するのですから、揉む必要はありません)

ステップ3→乾かした葉は石臼などにかけて粉末にしよう。

このようにして作られたものが抹茶です。
しかしここには抜け道もあります。

抹茶ではない粉末の茶

抹茶の栽培・製造には寄らなくとも
微粉砕することで、攪拌して飲める粉末の茶を作ることができます。

例えば・・・
1. 覆いせずに栽培された葉で作られた粉末の茶
→覆いするには経費も時間もかかっちゃう。覆いしなかったら、うま味は増えないし緑も濃くならないけれど、主として菓子やラテなどに加工するなら大きな問題にはならないだろう。

2. ちょっとだけ揉んだあとに粉砕された粉末の茶
→抹茶を作るには特別の製茶機械が要ります。煎茶を作る機械では作れません。しかし機械を新たに購入すること、それを設営する場所を確保することは大変なこと。ならば手持ちの機械で加工できるところまで加工して、そのあとで、製薬会社でも使われるような粉砕機にかければ粉になるだろう。 菓子製造やラテなどに使う前提なので、春の美味しい葉っぱでなくてもOK。

3. 中国で作られた粉末の茶
→もちろん中国にも、ISOの基準通りの方法で作られた抹茶があると信じています。 が、大部分はそうではないだろう…と、個人的に考えています。

1~3のような、「抹茶ではない粉末の茶」は少なからず出回っています。
え、でも、それは抹茶ではなく別の呼び方があるでしょ?
と思われることでしょう。実は
1や2のような粉末の茶も
製品になった際には「抹茶」や「加工用抹茶」という名称で流通している場合が大半です。
本来的には、抹茶が持つべきうま味や香りを携えていないのですから
ただ「粉末茶」と呼ばれるべきです。
しかしながら名称についての現状は変わる様子がありません。

生産量・生産割合

定義通りの抹茶と、定義に当てはまらない粉末の茶は
それぞれどのくらい作られているのでしょうか。

残念ながら、抹茶と粉末の茶の統計値はありません。
抹茶の原料である碾茶/てんちゃ の生産量はわかりますが、
抹茶の生産量は、統計を取ることが大変難しい。
また、粉末の茶単体でも統計は取られていません。
流通量から推測されたものを頼ると
2023年では、抹茶7割、粉末の茶3割の生産割合と言えます。
粉末の茶の3割は菓子製造やラテなどに使われています。
また、7割の抹茶のうち
品種・肥料・覆いの種別・摘採時期・摘採方法・製茶機械・粉砕機械によっては
飲用ではなく加工用にもっぱら適しているものが3割程になることが推測できます。
言い換えれば、飲用をめがけて作られていない抹茶が3割程度作られています。

抹茶4割、加工されることをめがけて作られた抹茶3割、粉末の茶3割です。

とどめをさす中国産

中国の生産量がどれほどかというと。

2023年の日本の茶生産量は74.756t
中国の茶生産量は、ざっと3,000,000tです。

日本から各国に輸出されている茶は4,290t
中国から各国に輸出されている茶は、ざっと300,000tです。

これを踏まえると
相当量の中国産の抹茶や粉末の茶が世界中に出回っていることが推測できます。

世界的な需要

多くの国で、抹茶を扱うカフェや抹茶を習慣的に飲む人が急激に増えています。
外国の、抹茶メニューを取り扱うカフェにおいては
抹茶碗で飲む抹茶にも、加工向きの粉末の茶が使われている場合があります。
外国からお越しの観光客に、
自国のカフェでサーブされる抹茶の色や味や香りはどのようなものでしたか?
とお聞きしていても
おそらく間違いなく、加工用の粉で抹茶を点てているのだろうな…と
思ってしまう答えが返ってくるケースがあります。

一方で、ハイエンドな物を嗜好する富裕層は特に
高額で高品質の抹茶を求める傾向にあります。
日本の抹茶が、そのような人々に買い占められ
日本のお点前用抹茶までもが品薄になっています。

お点前用や抹茶碗で飲むための抹茶も大切。
でも抹茶スイーツも抹茶ラテも美味しい。
抹茶はいちごや柑橘など果物とも相性が良いです。

抹茶と粉末の茶が、各々の必要とされるところに流通されてほしいです。

良いお店に出会う

消費する人は、目利きにならないと…ですね。
抹茶を所望される際は、まず信頼できるお店を見つけてください。
お茶屋には多くの抹茶のグレードがあると思います。
それらがどのように異なるのか聞いてみてください。
そのようなめんどくさい質問にも
誠実にきちんと答えらえるお店に出会えれば安泰です。

その先に

消費者を守るには、栽培や製造の定義付けだけではなく
製品になったものをチェックできると最も良いのだろうと思います。
それが、消費者を守ることにもつながると思います。
菓子やラテを享受するだけならいいのですが
抹茶として茶碗で飲む人を守りたい。
それができなければ日本の抹茶業界全体に汚名を残してしまいますし
世界中のtea enthusiastをがっかりさせてしまいます。

今回は、静岡県茶業会議所発行の月刊誌「茶」に連載されていた
『碾茶の現状と未来、2024年』を参考にさせていただきました。
月刊誌「茶」は、お願いすれば誰でも取り寄せて読むことができます。
作り手、売り手、お茶好き、様々な専門家などいろんな人が執筆していて
誰でもとっつきやすい月刊誌です。
日本茶だけでなく海外のお茶の話もあります。
静岡県茶業会議所の職員さんは皆仕事がてきぱきで感じも良く
頼りにさせていただいています。