お茶の香Ⅺ~におい・かおり~

香り香りと連呼していますが
香りと匂いってどう違うのでしょう?

考えさせられたのは、先日実施したお香と茶の会での出来事。
講師としていらしていた方の一人の言葉からでした。
(弊店では毎年一回、お茶に関連する外部講師をお呼びして
お話やワークショップを行っています。)

「かおり」は良いものに用いる言葉
「におい」は良くないものにも総合的に用いる言葉というふうに
短絡的に区分されることがある。でも決してそうではない。
におい(にほひ)という言葉は古来から用いられ、和歌にも詠まれてきた。
現代に起こりがちな言葉の誤解を解いていくのも私たちの大切な仕事。

といった意味合いのことをおっしゃっていたためです。
私はこれまで
お茶などの飲料について表現するときは「かおり」と言う
「におい」はなんとなく違うし、良いものではないと誤解を招くかもしれないから使わない。
このようにぼんやりと思ってきました。それ以上深く思索したことはありませんでした。

辞書によると

この機会を以て角川書店の「角川 新字源 改訂版」でにおいを調べてみると


国語で、おもむき(余韵)を「におい」ということから、韵の省略形匀の字形を変えたもの。


旧字は、自(鼻)と犬とにより、犬が鼻でにおいをかぐ意を表わす。

また、かおりを調べてみると

もと、黍(きび)と、甘とにより、きびのうまそうなかおり、ひいて「かおり」の意を表す。

芳・芬 
艸と、音符方とから成り、草や花のかおりがさかんに放散する意を表わす。


旧字は、艸と、香気がたちこめる意と音を示す薰とから成り、かおりぐさ、ひいて「かおる」「かおり」の意を表わす。

他にも馥郁の馥や馨の字もよいにおいを表していて
中国人の頭の中はどうなっているんだ…と参りました。漢字作りすぎ…

いずれにせよ、「匂い」はそもそも、おもむきのこと。ほかにも
色が美しくはえる、つや、はなやかさ、日本刀の刃部のあやもようといった意味も。
さらに韻・韵は、たがいにひびきあって調和すること。
匂いという言葉の幅広さをあらためて知りました。

和歌によると

和歌の世界を少し覗きました。

人はいさ 心も知らず ふる里は 花ぞむかしの 香に匂(にほ)ひける
いにしへの 奈良の都の 八重桜 今日九重に 匂ひぬるかな
東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ

確かにどれも、にほひや匂ひはその場の情景、作者の心に深く刻まれる思い出、心象風景を含んでいます。
たった三つの音節から、時間も空間もひとところにとどまらず広がっていきます。

あらためて


匂いという言葉の意味合いが広すぎるので
やはり、嗅覚に注目して語る場合にはふさわしくない。
草や花のかおりが放散しているわけではないので
お茶について表現する際には、芳や芬も最適ではありません。

お茶の嗅覚刺激について表現する際は香りで間違いないと
この度再認識しました。
さらに、香りは、おいしそうな場合つまり
肯定的に用いるべき言葉であることもはっきりしました。

また、単なる嗅覚表現だけではなく
特別に思いがこもっている時や情景描写をしたい場合には
「におい(匂い)」という言葉を、これからはおもむろに用いたい。
そして不快なものを声で表現する際には誤解なきように
ただ、「これ、クサイ(臭い)」と言えばいいのでしょうね。

言葉は書き留められた文字のように残らないけれど
大切に選んで使うものだとあらためて思わされました。
そもそも接客業なのですから、ことさらに注意をはらわなければなりません。

これからも毎年一回、外部講師をお呼びして茶会を行います。
来年も嗅覚に関するエキスパートをお呼びする予定です。
皆さまの日々の生活が、肩ひじ張らずとも彩りあるものになるような内容をご提供予定です。
また来年度、SNSでお知らせいたします。
どうぞこれからもよろしくお願いします。