お茶を淹れる道具の話Ⅷ
~茶海・聞香杯Ⅳ~

台湾茶芸の基礎となった工夫茶のことを今回は綴ります。

前回お話しました通り、台湾茶芸は1970年代
台湾内の文化復興の流れの中で
名付けられ、定義付けられました。
そのようにして形式を確立するにあたって
よりどころとなったスタイルが
中国大陸で行われていた「工夫茶」でした。
工夫茶は、「くふうちゃ」とか「ごんふーちゃ」と読みます。
功夫茶と書くことも。
創意工夫の工夫ではなく、手間暇をかけるという意味合い。
ちょっと(かなりかも…)手間暇をかけることで
より美味しく飲み、その時間をまるごと愉しみましょう
という気持ちで臨むため、そう呼ばれているのでしょう。

台湾茶芸が工夫茶を基礎としたのは?

台湾茶芸はなぜ、工夫茶を基礎としたのでしょうか。
工夫茶は明~清にかけ福建省南部や広東省東部で流行し
今まで受け継がれてきました。
広く行き渡る庶民の日常風景というものではなく
士大夫や文人の間で用いられるものでした。

中国大陸と台湾との位置関係を見ると
台湾と近い緯度上に位置しているのは福建省や広東省。
海を隔てるとはいえ大陸の中では比較的台湾から近場。
実際台湾に移住した多くの人々もこの地域出身でした。

その頃の台湾をこの目で見ていたわけではありませんが…
きっと、大陸出身の人々がもたらしたであろう
工夫茶の道具や淹れ方は、台湾内で目にされる機会が
多かったことと思います。
お茶の数寄者たちが扱う道具や手法をもって
「芸」として確立させることも、考えれば自然なことでしょう。

昨今では、工夫茶は華僑の人々にも受け継がれており
シンガポールやインドネシアにも伝わっているそうです。
発祥の地だけではなく、伝わった周辺地域においても
さかんに見られるとは面白いです。

工夫茶の道具

工夫茶の主な道具は四点。
炭で湯を沸かすための風炉、湯沸かし、急須、茶碗です。
おおまかな手順は決まっていますが
日本の茶道ほど動きの決まりはありません。
急須の代わりに蓋碗を用いる方もあります。

中国では

中国ではみんな工夫茶でお茶を飲んでいるのかというと…
まったくそのようなことはありません!
工夫茶よりも断然普及しているのは
茶杯(チャペイ)とも呼ばれる方法。
茶杯、要はマグカップのような長細く取ってがある器や
日本酒のワンカップのような取ってのない筒状の器などに
茶葉を入れ、高温の湯を上から注ぎ
茶葉が沈むのを待ってから飲み、
お茶が減ったらその都度湯を足すという飲み方です。

また、近年は上部と下部に分かれていて
ボタンを押すと上にたまった湯が落ちてくるタイプの茶器が大変普及しています。
この茶器は日本のメーカーでも作られていますが
日本ではまだあまり見受けられません。

外では水筒に緑茶を入れて持ち運びます。
日本ではマイボトルとして意識高い系のスタイルですが
中国ではかねてより浸透していました。
日本のマイボトルでは通常
水筒に茶葉を入れたままにはしませんが
中国では、入れたままにする方が普通です。
そして外出先でも適宜湯を足して飲み続けます。

次回はもう少し細かく、工夫茶のことをみていきます。
最初は、茶海と聞香杯についてさっくり書く予定でしたが…
随分引っ張ってます。
もうしばらくお付き合いくださいませ。

参考文献
「中国喫茶文化史」布目 潮渢 著
「茶の世界史」松崎 芳郎 著
「現代中国茶文化考」王 静 著