濃茶の練り方

コラムの終わりで「続く」と書きつつ
他のトピックを挟みたくなる店主妻です。

抹茶には濃茶と薄茶があります。
薄茶は概して、1.5g~2gの抹茶を茶碗に入れ
70cc程度の湯を注ぎ点てます。
湯温は、茶釜から柄杓ですくって茶碗に入れる場合は
熱湯ではなく90℃程度かそれ以下になっています。
点て方は茶道の流派により
表面が泡で覆われるほど入念に点てる場合と
さっと点てる場合があります。
泡で覆われると、泡のサポニンに苦味の要素が集められ
味わい上苦味を感じにくくなります。
唇に当たる様も柔らかく、まさに緑のカプチーノ。
さっと点てると、口当たり、重みも味わいも違って
より、その抹茶の香味がストレートに伝わります。

濃茶はどうでしょうか?
濃茶は本来、茶室に同席したお客様間が
一つの茶碗から飲み回すような性質のお茶。
一人当たりにすると3~4gに対して30cc~40ccの湯量で
お客様が二人、三人と増えると
二倍、三倍の茶量と湯量にしていきます。
お点前として行う場合は、抹茶を茶碗に入れた後
湯を一度に注ぐ場合もあれば
二度に分けて注ぐ場合もあります。
一度目に注ぐ量と二度目に注ぐ量についても
それぞれの練り時間についても、各流派において
あらかた決まりがあり、それに従って行うものでしょう。

しかしながら、コロナ下においてお客様が複数名いらしても
各服練り(一人分を一碗で練る)をすることも増えました。
お点前における作法はさておき
一人分の濃茶はどのように練るのが相応しいのだろうかと
実験しましたので報告します。
(前置き長くてすみません)

理想の濃茶

どのような濃茶を飲みたいでしょうか。
個人的意見かもしれませんが列挙してみました。

① ぬるい濃茶は美味しくない。できる限り温かく飲みたい。
② どろっとしすぎていると飲みにくい。
茶碗を傾けてもなかなかお茶が流れてこないので
茶碗をずっと傾けて待っておかねばならない。
飲みやすい程度にさらりとしている方がよい。
③ しゃばしゃばの濃茶もだめ。
薄茶が小服(少量)で濃い目なのはいいが
緩くなりすぎた濃茶は中途半端で美味しくない。
④ 味わい甘く香り高いとなお良い。

上記のような濃茶を目指していろいろ試してみました。

湯量と練り回数

まず茶量4gに全湯量30ccで数種の練り方を試したところ
やや粘り気がありすぎました。
茶量4gなら40ccが適していることがわかりました。

茶量3gで湯量30cにすることは可能ですが
茶碗に残る量を考えると40cc分練っておく方が良いです。

練る回数は1回より2回とする方が良いです。
言い換えれば、2回に分けて湯を注ぐという意味です。
1回目はダマを残さないように湯と抹茶をなじませ
2回目で心地よい滑らかさにして仕上げるという運びです。

なぜ2回に分けて練る方が良いかというと
濃茶は湯の総量が少ないため
練っている間に湯温が下がりやすいためです。
1回で練ろうとし、かつダマを残さないよう入念に練ると
40℃程まで湯温が下がりぬるい濃茶になってしまいます。

とても濃茶を練り慣れている方で
1分以内でダマを残さず滑らかに練ることができる方は
1回の注ぎでも湯温を下げずに完成させることができます。
慣れている方はそのようになさると良いかと思います。

茶量4g、全湯量40cc、練り回数は2回を固定とし4種の練り方を試す

なるべく温かい濃茶が飲みたいので
完成時湯温が高くなるよう工夫しました。

Ⅰ 1回目しっかり練っておき2回目の練り時間を短くする。
練り回数 2回 
練り時間 1分半→30秒 
湯量   20cc→20cc
完成時温度 49℃

Ⅱ 1回目と2回目の練り時間を同じにする。
かつ、トータルの練り時間をⅠと同じにする。
練り回数 2回
練り時間 1分→1分
湯量   20cc→20cc
完成時温度 48℃

Ⅲ 完成時湯温をできる限り高くするために
2回目の湯量を多めにする。

練り回数 2回
練り時間 30秒→45秒
湯量   15cc→25cc
完成時温度 52℃

Ⅳ Ⅲに反して2回目の湯量を少な目にすると
どうなるか試してみる。
練り回数 2回
練り時間 30秒→45秒
湯量   30cc→10cc
完成時温度48℃

わかったこと

完成時温度は48℃あれば温かみを感じられました。
しかし、温かければ温かいほど良いということもなく
50℃を超えるとさらりとした食感になります。
ともすれば茶と湯が分離したようにも受け取れます。
50℃以上で完成した濃茶は、時間が経過して
50℃未満まで冷めても分離感は残りました。
ということは、2回目の注ぎ湯量は
意図的に多くしなくても良いということです。

また、1回目の湯量は15ccが限界でした。
それ以上少量になると練ることができません。

ⅠとⅡを比較するとⅡの方が湯と茶が馴染んでいました。
2回目に注ぐ湯量が多くなるほど
2回目の湯を注いだ後の練り時間をたっぷりめにして
湯と茶とを馴染ませる必要があることがわかりました。

上の四条件の中では、ⅡとⅣは
完成時温度も練り加減つまり食感も良く仕上がりました。

結論

一人分の濃茶は茶量4g、全湯量40cc、
練り回数は2回が良い。
湯量は1回目と2回目同量か、1回目やや多めでも可。
最初に湯を注いだ時は抹茶がダマになりやすいためしっかり練ってダマをなくす。
2回目湯を注いだ後は湯と茶がなじむまで練る。
2回目の練り時間は長くなりすぎない方が良い。

これらに注意すれば
適度に温かく、濃茶らしいとろみ加減の濃茶ができます。

最後に、上記に加えて味わい甘く香り高い濃茶にするには
適切な抹茶を選ぶことも大切です。
薄茶用の抹茶は、濃茶にするには味の要素が強すぎ
苦味が甘味より前に出がち。
薄茶にすると味わいが物足りないくらいの抹茶が
濃茶に適しています。
美味しい濃茶を練ろうとする方は
ぜひ惜しみなく濃茶用の抹茶をお選びください。