お茶を淹れる道具の話Ⅷ
~茶海・聞香杯Ⅱ~

お茶を育んできたのは、他でもなく中国。
中国大陸は茶樹、茶栽培、茶の飲用と
茶にまつわる全ての起源と言ってもいい国。
茶樹の原産地は中国西南地方の雲南省を中心とする地域
(小葉種の中国種は温帯、
大葉種のアッサム種は熱帯起源とする
二元説もありましたが
現在では一元説が提唱されています)。
商品作物としての茶栽培は四川省
(現在確認できる資料では、漢の時代には四川省で
お茶を生産したことがわかっています)。
茶の飲用は四川省を起源とする説や
雲南省を起源とする説など
諸説ありますがいずれにしても中国内のことです。

陸羽と蘆仝

中国においてお茶が劇的に開花したといえるのは
やはり唐の時代ではないでしょうか。
唐代の陸羽(りくう)が記した「茶経」はお茶の聖典。
今読んでも納得する点が多くあります。
特に、お茶を飲む時間を日々の多忙から離れて
ふたたび自分に戻る機会とみなし
美や平穏を作り出す手段としていることに驚かされます。
お茶を飲む場所つまり喫茶店も唐の時代にはあったことがわかっています。
さらに唐代は隋に比して安寧の時代といえることからも
文芸が盛んとなり多くの詩人や文豪が排出されます。
お茶を詠んだ詩歌の中でも
陸羽と並んでその精神境地を切り開いたのは
蘆仝(ろどう)でしょう。

七碗茶歌

とても有名な蘆仝の「七碗茶歌」をここでもご紹介します。

一碗喉吻を潤す、二碗孤悶を破る。
三碗枯腸をさぐり、惟文字五千巻有るのみ。
四碗軽汗を発す、平生の不祥事、尽く毛孔に向かって散ず。
五碗肌骨清し、六碗仙霊に通ず。
七碗喫するを得ざるなり、惟両脇に習々たる清風の生ずるを覚ゆ。
蓬萊山何処にかある。
玉川子此の清風に乗じて乗り去らんと欲す。

一碗飲むとのどと口が潤され、
飲料としての作用が現れる。
二碗目はみずからの寂しさと憂鬱が消え
精神的な力が発揮し出す。
三碗の後は思考が開き、五千巻の書を書きだした。
四碗では軽い汗が出て、世の中の不平なこと
心の中の不満もすべて毛穴から散っていく。
五碗、六碗のあとはすでに肌も骨も清らかになり
羽の生えた仙人のように道を得た気分になる。
七碗はもう飲むことができない。
清い風が羽の下を拭き向けるのを感じ
世を離れて仙人のところに向かっていくような心持ちである。

中国の詩歌はスケールが大きい…
大きすぎて絶句しそうになることもありますが
蘆仝はきっと本当にこの心情に達していたのでしょう。

中国では他にもお茶に関する詩歌が本当に数多あります。
早くから、お茶が嗜好するものと位置づけられ
好まれ、求められたことを教えてくれます。
宋、元、明、清…と産地は拡大、茶種は増え、
茶道具は発展しました。
自ずと、茶芸の起源も中国大陸にあるだろうと
推測するところです…(続く)

参考文献
「中国喫茶文化史」布目潮渢
「茶の世界史」松崎芳郎