お茶を淹れる道具の話Ⅶ
  ~蓋碗と急須~

蓋碗(がいわん)という茶器があります。
お碗に蓋がついたような、宝瓶から注ぎ口をなくしたようなものです。
蓋を少しだけずらして隙間を作り
茶葉をせきとめながらお茶を注ぎ出すことで
急須のように使うこともできます。
また、蓋をずらしてできた隙間に口をつけて
直接飲むこともできます。

蓋碗の発祥は清の時代と言われています。
ちなみに茶壺(急須)が使われ始めたのは明の時代です。
清の康煕帝に愛用された宜興の蓋碗を
故宮博物院の所蔵品に観ることもできます。

蓋碗と急須の使い分け

蓋碗と急須は、どう使い分ければ良いでしょうか。

1. まずは、よく言われているように
急須はじっくり丁寧にお茶を淹れたい時に
蓋碗はカジュアルに比較的短時間で淹れたい時に
という使い分けが適しています。
急須の場合、どんなに勢いよく注いでも
注ぎ口から出てくる茶量は一定です。
一方で蓋碗は、蓋の開け具合によって自由自在。
さささーっ、どばーっと注げます。
そして洗うのもお手入れも樂。
そういった点がカジュアルさの理由です。

2. どばーっと注げるということは
一煎目に洗茶をしたいお茶にも蓋碗が適しています。

洗茶の理由は複数あります。
性が強すぎるお茶(在来のお茶など)は
一煎目は香りも味わいもきつい場合があります。
そのため一煎目は数秒だけ抽出し、その後流して
二煎目から飲み始めます。

プーアール熟茶のようなお茶に限っては
表面を一度洗浄したいため洗茶することがあります。

台湾の球形烏龍茶のように硬く引き締まっているお茶は
その引き締まりをふわりと緩めてあげるために
一煎目は数十秒抽出して、その後流してしまい
二煎目から飲み始めることもあります。

このように洗茶するシーンでは
大胆にお湯を流せる蓋碗の方が適しているでしょう。

3. 往々にして、蓋碗は磁器製、急須は陶器製です。
磁器は香りや味わいを吸着しませんが
陶器は香りや味わいを吸着します。
吸着するという性質は、養壺(ヤンフー)とも呼ばれるように
急須を育てもしますが
淹れるお茶全てにその急須の個性が映り込みます。
このことから
香りが大変強いお茶を淹れる時には
あえて陶器の急須を避けるのもひとつかと思います。
さらに、お茶の香りや味わいを、まるごとダイレクトに
知りたい時にも、磁器の方が適しています。

4. 台湾で様々な茶店、茶館や茶農家を訪ねると
茶芸館を掲げる店、情緒たっぷりにお茶を売るお店は
急須を用いる傾向がありましたが
茶農家さんや、茶農家さん直営の茶店では
所作や美しさはお客様の前でも気に留めない傾向がありました。
私どもの仕入先の茶農家さんも
基本的に蓋碗でお茶を淹れてくださいます。
しかしそういった茶農家さんでさえも
より美味しく淹れたいと思う時は急須を使うと
皆さん一様に仰います。
茶農家さんは、自身の手掛ける決まった茶種のお茶を
急須で淹れ続けているのですから
その急須は育っているはず。
急須で淹れる方が美味しいと感じるのも当然です。

終わりに

蓋碗と急須は、シーンによって使い分ければ良いです。
調理器具や食器を料理内容や季節性などによって
使い分けるのと同じです。

南アフリカ由来の新型のニュースが聞こえ始めました。
いったん平和を取り戻した日本も今後またどうなることか。
皆さまどうか安全に、自分時間に、また大切な仲間と
お茶時間を気楽に豊かにお過ごしくださいませ。

私どもにできることがあれば、いつでもご連絡ください。