名水Ⅵ 八光徳水

さまざまな名水を汲んできてはお茶を淹れるという実験
日々続けています。

石川の名水は概して、緑茶のように
円やかさを貴重とするお茶に合います。
また、ほうじ茶のように香り高くさっぱりと
飲みたいお茶に合います。
数年かけて観察してきましたが
明らかにその共通項があります。
水道水も同じ傾向があります。

一方で、輪郭のくっきりした味わいのお茶や
酸味や渋みを個性とするお茶を
淹れるのには適していない傾向があります。

中でも、致命的に合わないお茶がありました。
中国茶の岩茶や鳳凰単そうです。
石川の名水や水道水でこういったお茶を淹れると
香りは出ず、味わいはぼやけ、煎も利かず
特筆するほどのことは何もない
無難な烏龍茶の一つにしか感じられませんでした。

最初はそれが水の影響によるものだと気付かず
過ごしていたのですが
様々な名水や日々の水道水を観察する中で
水の影響によるものだと確信し
岩茶や鳳凰単そうの良さを引き出す名水に
いつか出会いたいと思い続けていました。

その水に、今月、遂に出会いました。
いや、正確には出会ったかもしれません。
まだ一度しか汲んでいません。
本来は年間を通じ複数回確認の上で報告すべきですが…
興奮のあまり先に書いてしまいました。

その水は

その水は、石川県羽咋市酒井町の八光徳水です。

これで岩茶を淹れると、これまで私どもが
他の名水や水道水で飲んできた岩茶と別物になりました。
やっと岩茶の真価が引き出されたような気がします。
石川県の水道水を浄水したものでは
岩茶や鳳凰単そうは、香りの立ち上がりが柔らかく
品種や製法の特性である際立った香りは
ベールに包まれてしまっています。
また、口当たりは横に広がり味わいは円みを帯び
余韻も軽やかになります。
一方で、八光徳水で淹れた岩茶や鳳凰単そうは
香りの立ち上がりが鋭く
一本の線にまとまった上で鼻筋に沿ってすっと伝わり
品種や製法の顔だちをしっかりと確認できます。
味わいは香り同様に一本筋の通った奥行きが加わり
力強く、長い余韻を感じます。

分析すると

それにしても、八光徳水の何がそんなに良かったのか…
水にはナトリウム・カルシウム・マグネシウム・カリウム
また、鉄や銅や亜鉛といった他のミネラルも含まれ
そこに、二酸化炭素の割合も関与し複雑にからみ合うため
八光徳水の何が幸いして岩茶や鳳凰単そうの良さを
引き出したのかは正直わかりません。

一つわかっているのは、八光徳水の硬度は82mg/㍑あり
石川では珍しいほどの硬度の高さだということです。
硬度はカルシウムとマグネシウムの割合から決まります。
カルシウム(mg/㍑)×2.5+マグネシウム(mg/㍑)×4.1
という計算式に基づき
0~100mg/㍑は軟水
100~300mg/㍑中硬水
300mg/㍑~硬水
です。
軟水の中でも
0~20mg/㍑は大変柔らかい
20~50mg/㍑は柔らかい
50~100mg/㍑普通
です。
(他の分類方法もあります。)
石川の水道水は20~30を推移するほどの軟水で
これまで出会ってきた名水も
ほぼ似たような硬度のものでしたから
八光徳水の硬度の高さは際立っています。

これから、この名水の観察を続けていきます。