お茶の香りⅣ~抹茶~

先月はすっかりコラムのことを失念していました。

昨年は、急に物事が動き始めた一年間で
次々イベントも依頼され(自分が作ったものもあるけど…)
年内に終わらすべき仕事をこなしているうちに年が明け
「あ!先月コラム書いてない!」
と思ったのは元日の午前のことでした。

いいわけでした。

抹茶は他の緑茶と何が違うの?

抹茶は、粉を茶碗に入れお湯を注ぎ攪拌して飲むもの。
つまり、茶葉をすりこぎで粉砕してまるごと飲んでいるイメージ。
もっと言うなら茶葉をまるっと食べているようなものです。
まるっと食べるなら、その茶葉は、少しでも甘いほうがいいと思いませんか。
苦味や渋味は少なく、まろやかな茶葉の方が、抹茶に適しているはずです。

そのようなことは400年前からわかっていたので
抹茶にするための茶葉は、ほかの多くの緑茶とは異なる方法で栽培されてきました。
被覆栽培(ひふくさいばい)と呼ばれるものです。
この被覆栽培により、抹茶の原料は渋味の少ない葉となり
それと同時に、他のお茶にはない独特の風味がするようになります。

感覚的には

みなさま、感覚的には、抹茶の香りはどのようなものとお感じになりますか?
私はグリーン(野菜や植物の緑を思わせるもの)、ナッツ(香ばしさを思わせるもの)、カラメル(甘さを思わせるもの)の要素を感じています。

抹茶は通常、とても熱いお湯で点てますが
そうすると、抹茶を茶筅でシャカシャカ攪拌しているときから
春菊、水菜やふきのとうのような
苦味を帯びたグリーンの香りを感じます。
飲んでみるとナッツのような香ばしい印象もあります。

また、湯温を下げて点ててみると
飲もうとして抹茶碗を顔に近づけたときに
カラメルやチョコレートのような甘みがします。
湯温を下げるにつれて、グリーンが遠のき、その代わりに甘い香りが前面に出るのです。

香り成分

実際、香り成分を分析してみると・・・

青海苔のような香りであるジメチルスルフィド(DMS)があります。
これは被覆栽培されるお茶に共通する成分ですので
玉露にもある香りです。通称「覆い香(おおいが)」。

被覆栽培されるお茶に共通しているもうひとつのものとして
カロテノイドが多く含まれるようになります。
それはヨノン系香気化合物に分解されるとのこと。
(分解のイメージはよくわかりませんが…)
とにかく結果として、青臭みをおびた緑茶の苦味を連想させる香りと
花のような良い香りが含まれてきます。

また、甘い香り→Methylaldehydes。
さらに香ばしい香り→2-acetyl-l-pyrroline。
同じく香ばしいピラジン類と甘いキャラメルのような香りのfuraneolは
国産抹茶に特徴的な香気成分であることもわかっています。

おすすめ

抹茶には、緑の香りと香ばしい香りと甘い香りが含まれます。
どれも均等に含まれるとは限りません。というのも
抹茶は通常、それぞれの茶師がブレンドして
会社や店の好みの香り・味わいを作っているものだからです。
茶師によって、苦味を残したい場合もあれば
できる限り甘い印象で仕上げたい場合や
香ばしさで引き付けようとする場合もあり…
同じ抹茶でも、比べだすときりがないほど個性があるものです。

もしお手元に抹茶があるなら
その抹茶からどのような香りが強く出ているか確認してみてください。
きっと面白い発見があると思います。
さらに、90℃以上の高温の湯と
ぬるめのお湯で点て比べるのも面白いかもしれません。
同じ粉でも複数の側面があることに気づかれることと思います。

参考文献
「抹茶の特徴」 原口 健司
「外国産抹茶と比較した日本産抹茶の特徴を表す香気寄与成分」 水上 裕造
「食材としても注目される抹茶の科学的特性」 中村 順行
「かぶせ茶の香りの特徴」 川上 美智子・山西 貞