お茶の香りⅢ~煎茶と釜炒り茶~

今回は煎茶と釜炒り茶の香りのことを。
煎茶、釜炒り茶、どちらも緑茶の一種です。
異なるのは、葉を摘んだ後の処理。
葉を摘んでから、高温の水蒸気で蒸して酸化を止めているのが煎茶。
葉を摘んでから釜で炒って酸化を止めているのが釜炒り茶。
どちらにしても、摘んですぐに酸化を止めているので
葉は緑のままに保たれ新鮮さをとどめたお茶になります。
しかしながら、葉を蒸す場合と炒る場合、香りに及ぼす影響は異なります。
両者は、お茶の水色は似ていますが、全く非なるお茶。
煎茶からは、青々とした草や野菜のような香りを感じ取れるのに対して
釜炒り茶からは、カステラ、ポン菓子、べっこう飴のような
甘く、少し焦がしたような香りを感じ取れます。
本当にそれぞれは異なる香気を発しているのか
具体的にどのような成分が関与しているのか、あらためて確認してみました。

分析の結果多く検出され、そのお茶らしさを形づくるもので、
かつ官能検査上も知覚されている成分をピックアップすると…

煎茶

ヘキセノール、ヘキセニルアセテート(青葉アルコールと呼ばれことが多い)や
ヘキセノールと酸の結合によるエステル化合物生成=若葉の爽やかな香り
ジメチルスルフィド=青海苔のような香り
MMP 4-mercapto-4-methyl-2-pentanone(MMP)=グリーンな香り
ほかにも、じゃがいものようなグリーンな香り、キュウリのようなグリーンな香り、抹茶のようなグリーンな香り…とグリーンな香りが圧倒的です。
また、リナロール=スズランのような軽く爽やかな花香も多く
これは煎茶の爽やかさに寄与しています。

釜炒り茶

釜炒り茶は緑茶ですので、青い香りもあるのですが
一方で、煎茶にはなく釜炒り茶にはある、特徴的な成分がいくつかありました。
1-ethy1-3,4-dehydropyrrolidone=香ばしい香り、弱い焦げ臭。
さまざまなピラジン類、ピロール類。
これらはほうじ茶や珈琲にも含まれるもので、焙煎系の香ばしさです。
釜炒り茶が、煎茶とは趣を全く別にしていることがよくわかります。

ほかにも、リナロールオキサイド=重厚な香り、ゲラニオール=バラのような香り、
2-フェニルエタノール=バラのような香り、ベンジルアルコール=フローラルで甘く華やかな香り、
ネロリドール=弱い快い香り、インドール=青臭く重い香り等の成分も検出されます。

実際は、釜炒り茶からバラの香りや、甘く華やかな香りを感じたことはありませんので
釜炒り茶の香りを下支えしている成分なのでしょう。

釜炒り茶の味わい方

釜炒り茶も、味わいだけをみると緑茶です。
しかしながら、煎茶とは別の、個性的な香気を秘めたものですので
釜炒り茶を味わう時は、煎茶より少し高めの湯温で抽出することで
香りを引き立たせて味わうことが、釜炒り茶らしさを引き出すことにつながります。
日本全体で、0.3%程度しか生産されていない、希少な緑茶ですが
釜炒り茶に出会われたら、ぜひ、90℃程度の高い湯温で淹れてみてください。

弊店にも取り扱いはございます!

参考文献
「茶の事典」 大森正司ほか
「焙焼、釜炒り操作による茶香気の形成」 川上美智子 山西貞
「緑茶の香りの特徴」 水上裕造
「中国産および日本産かまいり茶の香気成分」 小菅充子 相坂浩子 山西貞
「不発酵茶と半発酵茶にみられる香気成分の変化」 竹尾忠一
「日本茶の香りに寄与する成分とその特性」 熊沢賢二 馬場良子
「L-テアニンとD-グルコースの焙焼によって生成する揮発性成分」 原利男