工芸とアフタヌーンティー

今回は、先日関わらせていただいた
「工芸とアフタヌーンティーイベント~金沢時間~」のことを書きます。
一週間をテーマにした七種のお菓子やお料理に
それぞれのお茶を合わせるという愉しすぎる課題でした。

そもそも発案は一人のマダム。
そのマダムが、ご友人でもある製菓材料の会社の重役さんとタグを組み
金沢の珠玉のお菓子職人や料理人に声がけし、七人の作り手がそろいました。
アフタヌーンティーですからお茶が必要です。
普通に考えれば、歴史あるお茶屋さんや全国的に知られるお店や会社が
選ばれることでしょう。
しかし、ここで私どもを強力に押してくださった方がありました。
その方の押しのおかげで私どもにお声がかかったのです。

大役であることはわかっていましたが、二つ返事で引き受け
引き受けた瞬間から大変頭を悩ませました。
日数をかけて念入りに準備して臨みましたので、その内容をここで書き留めさせていただきます。

会場はタイ料理レストラン、「海月が雲になる日」。
水引作家の北原泉さんの水引作品で会場が彩られました。

少しだけ憂鬱な月曜日

作り手:ORIGOオリゴ
秋の味覚であるキノコなど使われ
見る人をクスっと笑わせ、心躍らせる盛り付けのお料理でした。
お菓子ではありませんので、甘くないものでした。
ここには、紅烏龍茶をシロップに48時間漬けたものを
炭酸水で割ったものを合わせました。お茶のスパークリング。憂鬱な月曜に、あえての泡。
ほんの少し塩気を含むお料理に
紅烏龍の持つフルーツ・カラメル・ローストの香りの要素を合わせて膨らみを持たせました。

空を見上げる火曜日

作り手:Remrefレムレフ
シルクかベルベットのような舌触りのジェラートが二種。
ジェラートとは、こんなにもなよらかだったのかと目を見張るものでした。
チョコレートと焼き菓子も控え目に添えられます。
ここには、私どもの知る限り一番美味しい紅茶と
加賀の紅茶をブレンドした紅茶を合わせました。
フルーツ・シトラス・フローラル・カラメルの香りの要素を持つ高品質のお茶を添えました。

雨の水曜日

作り手:海月が雲になる日
カリーパフというタイの料理でした。
これにはお茶もスパイスをきかせて臨みたいと
火曜日の紅茶の二煎目に、赤松とジンジャーの抽出液を混ぜ
上にはホワイトペッパーを一粒浮かべました。
赤松とジンジャーを加えることでウッド・スパイスの要素を加えて
火曜のお茶と同じ茶葉の二煎目を使っているにも関わらず、がらりと味変させました。

テンションみなぎる木曜日

作り手:吉はし
無花果のういろうでした。
これまでの三日間に比べると優しい香りと味わいの和菓子です。
ここには加賀棒茶としても知られる、茎ほうじ茶の浅炒りを合わせました。
浅炒りにした茎ほうじ茶は、緑茶の名残を残しつつほうじ茶の甘い香りがあるお茶。
ロースト・ナッツ・穀物感があります。
水出しにすることで、甘味をしっかり引き出しながらも
ほろりと苦味も存在するようにし、香りを中に閉じ込め
お菓子のじゃまをしないように、30ccという少量だけ提供しました。

午後が待ち遠しい金曜日

作り手:旅する料理
デーツやいちじくジャムの安定感にグラニテやナッツの軽快な触感と温度感。
周りにはローズの花びらがちりばめられ
女性らしい美しい一品でした。
金曜日ですから愉快な気持ちをお茶でも表現したく
火曜、水曜で使った茶葉の三煎目に
カカオニブの抽出液を合わせることで甘い香りを加え
ブルガリアのダマスクローズを各カップに一蕾だけ浮かべました。
スイーツにもローズの花びら、お茶にもローズの蕾。
華やかであればあるほどいいではないかと試みた一茶でした。
紅茶のベースにカカオニブでカラメル・ロースト・ナッツを足し
最後にローズのフローラルを際立たせる。香りのシンフォニーでした。

水曜日と金曜日のハーブ、スパイスのアドバイスは
@kasuka_maのアカウントで活躍される跡部紗智さんに全面的にお任せしました。

お出かけ土曜日

作り手:SAIサイ
お茶の器:竹村友里
チョコレート専門店SAIさんの二種のチョコレート。
甘すぎず、さりとてビターでもない中立な味わいのチョコ。
このような中立な味わいを作るのはとても難しいのだろうと思わされます。
ここには、プーアールジャスミン茶のミルクティーを。
プーアールジャスミン茶はプーアール熟茶にジャスミンの花の香りを付けたお茶。
プーアール熟茶は、実はミルクティーに大変適しているのです。
これは、コロナ下で時間があるときにあらゆるお茶をミルクティーにしており
その際に発見していました。
とはいえ、プーアール熟茶は独特の大地のような香りがあり不得手の方もおられるお茶です。
そのため、ジャスミンの花の香りを持たせることで香りの方向性のバランスを取りました。
ウッド・ローストのお茶をミルクで割ったものから、ジャスミンの香りが立ち上る。
七日間の中で一番高額の一茶でした。
なんとも言えない赤茶色、メコン川みたいな色のミルクティーなのですが…
竹村友里さんの白いカップに注ぐと色も映えました。

Happy日曜日

作り手:和今
ドライ林檎とシナモンと道明寺粉などを用いた一品。
和食の料理人の作る和菓子です。
通常、お菓子といえばばら売りされるものですが、
こちらの一品はお皿と一体となってこそ完結していました。お料理人のお考えを見る思いがしました。
最後の日は抹茶にしたらいいのでは?というご意見もいただいておりましたので、抹茶を。
老若男女が抵抗なく飲める抹茶にするか
あるいは、苦味が喉元に一本通り、すっと消えていく抹茶の二種類を考えましたが
最後に引き締まりを持たせるということもあり、後者にしました。
緑茶にある、グリーン(青々とした香り)・野菜感・豆・海藻の要素で
七日間をテーマにした、和のアフタヌーンティーの最終日を締めくくらせていただきました。

お茶の可能性をこれからも

お茶は、お料理やお菓子と同等の存在感で合わせるには難しいことがあります。
お茶が繊細すぎて負けてしまうのです。
香りや味わいや密度がしっかりしているお茶なら、茶単品でも合わせることができますが
そうでない場合はどのように引き出し、どのようなアレンジを施せば成立するのか。
何年も試行錯誤してきた結果の一部を、披露させていただくことができました。

このような機会を与えていただいたこと、本当に感謝していますし
同様の企画があれば、都度応えていけるように
これからも、日々、地味に実験を続けていきます。