お茶の香りⅡ~ほうじ茶~

前回とても大切な香りについて書いていませんでした。
それは、ほうじ茶の香り。
泣く子もだまる、また外国人にも愛される、あの香りです。

ほうじ茶と一口に言ってもいろいろ。
茎交じりの葉、がさがさで大きな葉、葉がなくて茎のみのほうじ茶も。

ほうじ方によって、お茶にした時の水色もいろいろ。
浅い黄土色になる緑ほうじ茶
伽羅色の浅炒りほうじ茶
駱駝色の深炒りほうじ茶など。

これほど多様なので香りにも差異がありますが
どのほうじ茶にも共通しているのは、こうばしいということ。
ロースト系の香りです。

ほうじ茶の香りの生まれるとき

ほうじ茶の香りは、製茶の最終工程において高温で葉や茎が加熱された際に
原料の葉や茎の中にあった糖とアミノ酸が反応してできるものです。
メイラード反応というと聞いたことがある方が多いかと思います。
メイラード反応はパンやクッキーにこんがり焼き色がつくのと同じ原理。
珈琲豆の焙煎でも同じことが起こっています。
また焼き魚や照り焼き肉、醤油やソースや味噌の茶色っぽさも、同じ理由によります。

ほうじ茶の香りが愛される理由

上の食べ物、どれをとっても食欲をそそりませんか?
多くの人に、普遍的に好まれるものであるように思います。
ほうじ茶も安定して受けの良いお茶です。
例えば、教育機関でお茶講座をさせてもらうとき
いろいろなお茶を並べても、ほうじ茶が一番人気です。
外国人観光客の間でも、少なくともほうじ茶を嫌う人は見たことがありません。

人はやはり、香りで飲食をしているのでしょう。
鼻をつまんでものを食べても、舌だけではあまり味を感じられません。
香りがあれば調味料を増やさなくても味わいが濃く感じられることもあります。
フードペアリングは香りの相性に基づいて組み立てられます。
香りは食において大切な要素。
ほうじ茶のように、強くこうばしいロースト系の香りは、明らかにキャッチーです。

またほうじ茶の香りは、上の様々な食べ物と同じ効果を持っており
具体的には、ナッツやチョコレートや穀物を連想させます。
甘いもの、脂質や糖質を含むものを思い起させる香りなのです。
甘いものはストレスを和らげたり緊張を緩和させたりするもの。
特に子供は甘味=栄養の源と感じています。

外国人の間でもほうじ茶や玄米茶が好まれますが
やはり甘さを連想させることによると思います。
(他にも外国人がほうじ茶や玄米茶を好む理由はありますが
それについて説明しようとすると別のコラムが必要になります。)
実際、ほうじ茶を好んで購入する外国人の、日頃の飲料をお聞きすると
かなり甘味付けされている傾向もあります。

ほうじ茶の香りの人気の理由は他にもあるかもしれません。
何か見つけたらまたご報告します。

続く

参考文献
「食品の官能評価・鑑別演習 第3版」(社)日本フードスペシャリスト協会 編
「茶の事典」大森正司 編集代表
「人はなぜ甘いものや脂肪分に富む食品を好むのか」松村康生