お茶を淹れる道具の話Ⅴ
   ~陶器と磁器Ⅱ~

先日、陶器の茶器はお茶の味わいを円やかに
磁器は持ち味をそのまま引き出すとご紹介しました。
これは一般論にすぎず
全てこの通りと断定することは危険すぎますので
今回はもう少し細かくご説明します。

大前提として陶器にも釉薬ありと釉薬なしがあります。
釉薬のないもの、通常無釉、焼き締め又は炻器と
呼ばれるものに関しては
その土や焼成状態の影響が如実に出ます。
今回記載するのは無釉陶器のこととしてお読みください。

もう一点、このように「比較」をする際に
注意すべきことがあります。
それは、本来は全く同じサイズと形状のもの同士で
比べる必要があるということです。
陶器と磁器の比較、別産地の複数の陶器の比較、
別産地の複数の磁器の比較、ガラスなど他素材との比較…
どのような場合でも、です。

大きさが違えば、茶葉量や湯量をそろえても
湯温の下がり方が異なってしまいます。
形状が少しでも違うと、茶葉の広がり方、
湯温の保たれ方、注ぎ口から抽出液が出る量と速度が
異なってしまいます。
このような僅かな差異が影響を与えますので、
厳密な比較にはなりません。

残念ながら私どもの店頭には
全く同じサイズと形状の陶器と磁器はありませんので
極力近いもの同士での比較を行いました。
またサイズと形状の差異に無関係であろうことのみを
こちらで述べます。

具体的に

不発酵茶(煎茶)・半発酵茶(日本及び台湾の烏龍茶)・発酵茶(紅茶)を磁器と陶器で淹れました。
茶量・湯量・湯温・抽出時間は同じです。
個々のお茶の記述は省略しますが概して下の通りです。

1. 磁器で淹れたお茶は陶器で淹れたお茶より濃く重く感じられる。
これはどのお茶にも共通することでした。
磁器には吸水性がないため
(ちなみにガラスや金属にも吸水性はありません。)
磁器で淹れるとお茶の持ち味が茶器に影響されずに
そのまま引き出されることが理由でしょう。
一方、無釉の陶器の表面には凹凸や気孔が在ります。
吸水性があるだけでなく、
特にカテキン類ポリフェノールのような渋味成分が
物理的に吸着されます。
磁器で淹れたものより陶器で淹れたものの味わいが
比較的軽く感じられる場合の原因はそれと考えられます。
無釉の陶器でも酸化焼成と還元焼成等
焼成方法により表面の成分が異なり
それゆえにお茶の味わいも異なります。
さらに同じ焼成の茶器の中でも
急須表面の気孔の多寡によりばらつきがあり
渋味強度を軽減する度合いは異なります。

2.磁器の方が映えるお茶と陶器の方が映えるお茶がある。
磁器の方が映えるお茶とは
純粋に美味しいお茶なのかもしれません。
美味しさが茶器に吸着されず
そのまま現れているだけともいえます。
仮に磁器の中にもお茶を円やかにするものがあるなら
その要因は釉薬と考えられますが
どの釉薬またどの成分が良いかは
今のところ私どもにはわかりません。

3.お茶によっては、陶器で淹れた場合と磁器で淹れた場合で全く別の香味が感じられる。
磁器はお茶の持ち味を正直に引き出しています。
茶葉の持ち味を良くも悪くもそのまま感じるには
磁器が適しています。
一方、陶器は自身の土にお茶の香味の一部を
吸着しています。
またこれまで淹れられてきたお茶の香味を
既に吸着しているため
既に浸み込んだ香味が、新たに淹れるお茶にも
影響を及ぼしていると考えられます。

具体的には半発酵茶と発酵茶に顕著でした。
陶器だとミルクや林檎のようなフルーツ香がするのに
磁器からはグレープフルーツなど
柑橘系のすっきりした香りがする 半発酵茶は好例でした。
また陶器だとゼラニウムやローズの香りがする淡いお茶が
磁器だとパイナップルや桃や檸檬のジュース液のように
濃い味わいになるものがありました。
鉄観音茶も面白く、
磁器の方は焙煎香やアスファルトのような力強い香り
陶器の方はライチやリュウガンの甘い香りがしました。
総じて湯量に比して茶葉量が多い方が
このような違いをより明瞭に感じることができました。

4.茶器選びはお好みで
様々なお茶を淹れ、その香味をありのままに楽しむには
磁器が適しています。
陶器は、茶器を使いこみ茶器を育て(養壺・ヤンフー)たい方に適しています。
私どものお勧めできる作家やメーカーもございます。
その他茶器全般のご相談も、個人さまお店さまを問わず
遠慮なくお問合せください。

 

参考文献
「急須の材質が緑茶の渋味強度へ及ぼす影響の考察」
稲垣順一 服部正明 西川孝 喜多嶋秀之 林宣之
「急須の表面状態が緑茶の呈味成分に与える影響」
稲垣順一 西川孝